[2017年10月14日改訂]

(以下では2017年度以降の研究内容について紹介します。それ以前の内容については別にまとめたものをご覧下さい)

脳の構造は比較的よくわかっており、ニューロンと呼ばれる神経細胞のネットワークですが、そこからどのようにして意識や思考といった機能が生まれるのか、その原理はわかっていません。1個のニューロンのことは具体的に数式で書けるため、その数式をニューロンの個数分記述し数値シミュレーションを行うことによって、原理的には脳の活動を計算機上に再現することが可能です。我々はそのような研究を行っています。特に

  1. 脳の仕組みを数理的に解明する理論神経科学
  2. 神経回路シミュレーション向けのスパコンの効率良い使い方を開発する高性能神経計算
  3. 脳型学習制御機構を活用する工学応用

の3つの柱からなり、現在下記のプロジェクトが走っています。

全脳学習アーキテクチャの研究開発 (理論神経科学)

運動制御に関する大脳皮質運動野階層・大脳基底核・小脳を全て数理的にモデル化した、全脳レベルの学習アーキテクチャを開発しています。大脳皮質は深層学習で、大脳基底核と小脳はスパイキングニューロンでそれぞれ実装し、階層型超並列強化学習を行います。複雑な運動を少ない経験から学習し滑らかに動作することを目標にしています。産総研AIセンターからの再委託で、NEDO次世代人工知能の支援を受けています。

小脳の計算機構の理論的再検討も行っています。小脳は伝統的にパーセプトロンと等価であり教師付学習機械だと考えられてきましたが、その後の研究の進展により単なるパーセプトロンには留まらなくなっています。様々な研究結果を統合した新しい小脳学習理論を構築しています。科研費基盤Cの支援を受けています。

人工小脳の構築 (高性能神経計算)

GPUクラスタやスパコンを効率良く使って精緻な小脳神経回路の数値シミュレーションを高速化・高性能化するための手法を開発しています。理研情報基盤センターのスパコンShoubu (PEZY Computing / Exascaler社製)を全ノード利用して、ネコの小脳に相当する10億ニューロンからなる小脳神経回路のリアルタイムシミュレーションを達成しています。現在はJAMSTECのGyoukouを用いてヒトスケール1000億ニューロンのリアルタイムシミュレーションを計画しています。GRAPE Projectの人々と共同研究を行っています。

「京」コンピュータも使っています。「京」やその次世代機であるポスト「京」上で小脳のシミュレーションを行い、他の研究グループが開発している大脳皮質モデルや大脳基底核モデルと接続することで、ヒト規模の全脳の精緻な神経回路シミュレーションを実施することを目指しています。文部科学省ポスト「京」萌芽的課題の研究分担です。

さらに、神経細胞の形状やその中を流れるイオンやカルシウムまで含めた非常に精緻なシミュレーションをGPUやアクセラレータ上で高速に行うためのシミュレータを開発しています。特に小脳プルキンエ細胞のカルシウムダイナミクスとそれに伴うシナプス可塑性のメカニズムに興味を持っています。科研費新学術「脳情報動態」計画班の分担です。

脳型歩行制御機構の研究とリハビリのシミュレーション (工学応用)

リハビリは時間もお金もかかるし何より忍耐を必要とするので患者さんの負担が大きいです。患者さんの身体や脳の状態を模倣したシミュレーションができれば、様々なリハビリ法をあらかじめシミュレーションで検討できるため、負担を大幅に減らすことができると考えられます。そのようなことを目指して、身体の筋骨格系動力学モデルと脳モデルを接続して歩行の適応制御の研究を行っています。