なぜ山﨑研は二言目には「成果を出せ」と言うのか(パート1)

まあ一言目は「金はある」なんですけどね。

それはともかく、せっかくうちに入ってきたのだから、うちでしかできないことをするのがいいと思うのですよ。とんでもない性能の計算機を独り占めしたり、ご家庭には絶対存在しないハイエンドGPUやヒト型ロボットで遊んだり、読みたい専門書(特に洋書)を片っ端から読破したり、科学雑誌(特に洋誌)に載った最新の研究成果に即座にアクセスしたり、海外に行ったり自分の書いた英文をプロに添削してもらって英語の実地訓練をしたり、そろそろしたりがゲシュタルト崩壊してきましたが、そういう知的なチャレンジがうちではやりたい放題です。しかもお金は一切かかりません(ここ重要!)。全て研究室持ちです。洋書とか高いし、ハイエンドGPUやロボットに至っては個人では絶対に買えないし。

そういう一連の行為は、研究とすごく相性がいいです。実際、研究の過程ですることと言えば、

  1. 必要な知識を得るために専門書(特に洋書)を読む
  2. 最近の状況を知るために科学雑誌(特に洋誌)に掲載された最新の論文を読む
  3. 高性能な計算機を占有してがんがん計算をさせる
  4. 研究テーマ次第では特殊なハードウェアを使う
  5. 結果が出たら海外で発表する
  6. 最後は論文にして発表する

です。つまり研究をすることによって、自然と上記の知的チャレンジができる仕組みです。三年生までの授業では1-4をごくごく薄めたことくらいしかできませんが、うちではどこまでも追求できるし、特に5,6という新しい体験が待っています。

(ここで、初めての方はまず勉強と研究の違いをご一読下さい。)

例えば、もう21世紀も1/5が過ぎようとしているので、英語くらい当たり前にできて欲しいわけです。そのためには、実際に現場でプラクティカルに使うのが一番の近道です。例えば入国審査を無事通過するとか、空港からタクシー(バスでも列車でもいいよ)で予約したホテルにたどり着くとか、スタバで希望の飲み物を買うとか(色々聞かれるから難しい)、そもそも日本からホテルを予約できるのかとか、飛行機の機内で夕飯をちゃんとチョイスできるのかとか、そういう体験を通して自然に英語が身につくし、身につけるためのモチベーションが形成されます。本を読んだりTEDを見たりしてブラッシュアップするのはその後です。最初のステップは、まず無様でもいいから体験すること(最初はみんな無様だから心配するな)、そして挫折せず生きて帰ってくることです。また、英語で文章を書くためには、そもそも英語日本語に関わらず長い文章を書き慣れている必要があります。たくさん書くこと、たくさん書いて自分のフレーズを蓄えること、できればその都度添削されていることが大切です。そしてこれらは研究発表や論文執筆で自然に通る道です。

他にも、「コミュ力」っていう不細工な言葉があって、他人の共感を得るためにはどう振る舞うか、ということを察知する能力を表す用語のようですが、大学で鍛えるべきコミュニケーション能力はこういう情緒的なものでは無く(情操教育偏重の弊害ですな)、データと推論にもとづいた論理的なものです。これはまさに研究の過程で必要とされ、自然と鍛えられる能力です。他人の研究発表を聞いたり論文を読んだりした際は、著者の主張を正確に理解し、適切な内容の質問を正確に繰り出すことが必要です。質疑が長くなれば、会話も必然的に長くなります。逆に自分が発表する際は、自分の主張を簡潔かつ筋道立てて正確に主張する必要がありますし、聞かれた質問にはやはり簡潔かつ正しく回答する必要があります。口頭発表なら英会話ですし、論文なら英作文です。さらに、明解な発表資料やスライドを作成したり(うちでは「美しい」という項目も加えたいです)、長い文章と適切な図を作成することも必要です。そういう出力の仕方も自然と訓練されます。

「共感」だけで物事を進められるほど世の中甘くないです。特に日本の外では通用しないと思った方が。

その際、「金はある」という一言目が非常に重要なファクターになってきます。お金があるから学生を海外発表に出して、旅行の手配から何から全部自分でやって、一人で行って生きて帰ってくる、という体験をさせることができるし、お金があるから論文の原稿をプロの英文校閲に出して、本当にいいのかどうか自分でもよくわからないあやふやな文章が、正しく適切な言い方になって返ってくる、という体験をさせることができます。

結局私がやっているのは、研究の皮をかぶせた教育なのだと考えます。個人ではありえない環境に身を置かせ、個人では出来ない体験をさせ、高いモチベーションを形成させて、あなたを鍛えたいのです。以上が、私が成果を出せと言う理由です。

(パート2があります。)

[2017年2月5日 パート2を追加]
[2016年12月14日 初出]