ゆく年くる年2017

今年もこの季節になりました。去年の今日はネコ小脳論文の査読と戦っていましたが、今年は来年早々の実験の準備。そして年末には大きなニュースがありました。

今年のハイライト:

  • 山浦さんがjoinした。
  • 市村さんが博士課程に進学した
  • 論文2本(ネコ小脳と市村の歩行)と人工知能学辞典(1項目)が出版された。
  • NEDOプロは首の皮一枚でステージゲートを通過した。
  • ポスト「京」も中間評価を通過した。
  • 科研費新学術「脳情報動態」と次世代領域研究開発「高性能汎用計算機高度利用事業」が始まった。
  • 情報工学工房に参戦した。
  • P社があんなことになるなんて。

ポスト「京」に新しく山浦さんが加わって、さらに研究室が強くなりました。2週に1回の割合でポスト「京」合同セミナーを理研の五十嵐さんとやっていて、研究はそれなりにうまく進んでいると思います。五十嵐さんが非常にスケーラブルな神経回路シミュレータを作成しているので、我々もそれに乗っかっています。来年は論文を書きます。

市村さんは博士課程に進学し、彼の卒研(!)だった小脳歩行モデルの論文がようやく出版されました。当初の計画よりだいぶ遅くなりましたが、ちゃんと成果にできて良かったです。来年は次の論文を。

大きいプロジェクトが継続になったのは大変うれしく、特にNEDOプロはステージゲートを経ることで研究の方向性がより明確になったので、今後もより加速させていきたいと思います。また新プロジェクトが2つ追加されて、研究資金的にかなり潤沢になっており、色んなことが可能になりました。例えば学生に給料を払うとか。大学にありがちな学生を搾取する構造をなんとかして改めたいです。

授業に関しては、新しい学域の演習を担当すると共に、新たに情報工学工房に参戦しました。ARMの64ビットアセンブラをやっています。ポスト「京」ではシミュレーションコードをアセンブラで書こうと思っていて、その勉強がてら始めた私の私による私のための工房ですが、参戦してくれる学生がいて、東大からも参加者がいて、有意義にやっています。ただまあ、ARMはソフトバンクに買われたので、世間ではRISC-Vが盛り上がっているようですが。MI/CS実験第二では新たに深層学習の課題を始めます。

P社に関しては特に何か言うつもりはなく、「暁光」でヒト小脳をやる計画に水を差されてしまったのが残念なのと、みんな人の名前くらいは正しく綴ろうな、くらいのものですが、今回感じたのは、自分達が研究で使う道具、それも研究戦略上重要な道具は、自分達で作らなければいけない、ということでした。そうでないと外圧で簡単に研究を中断させられてしまいます。

「高性能神経計算」という研究室の方向性はかなり見えてきました。ニューロモルフィックチップをやっているデバイスやHPCの研究室はたくさんありますが、神経科学の専門誌に研究論文を書いている研究室は一つもありません。その逆の、神経科学をやっていてデバイスやHPCの専門誌に研究論文を書いている研究室も我々以外ありません。我々は自分達の小脳研究をより強力に推進するために、来年は自分達でチップを作りたいと思います。仕様は既に頭の中にあります。

来年も盛りだくさんでお送りします。

山﨑 匡

脳科学ライフサポート研究センター スプリングスクール

BLSCが毎年高校生向けに開催している体験授業ですが、今年度は私が担当します。「スパコンで脳を再現する」というタイトルで、実際にコードを書きます。
http://www.uec.ac.jp/exchange/extension/#p10

3/28の13:00-17:45と3/29の13:00-17:45の2回開催。両日とも同じ内容です。先着各5名。

せっかくなので「京」とか「菖蒲」とか「暁光」とかを使えるように交渉する予定です。

JNNS2017

9月20-22日に北九州国際会議場で開催された第27回日本神経回路学会全国大会で、山﨑研から5件の発表を出しました。

  • 山﨑 匡. 強化学習機械としての小脳?. 第27回日本神経回路学会全国大会
  • 山浦 洋, 五十嵐 潤, 山﨑 匡. 大脳小脳連関ループのスパイキングネットワークモデル
  • 市村 大輔, 山﨑 匡. 小型ヒューマノイドロボットを用いた病的歩行の計算機シミュレーション
  • 露木 吏, 山本 祐輝, 山﨑 匡. 小脳顆粒層のマルチコンパートメントモデルシミュレーション
  • 古荘 航, 山﨑 匡. オンライン学習のためのネコスケール人工小脳の高速化

ICANN 2017

古荘さん (M1) が、イタリアのサルディーニャで開催された国際会議 International Conference on Artificial Neural Networks (ICANN) でポスター発表を行いました。

Wataru Furusho, Tadashi Yamazaki. Implementation of Learning Mechanisms on a Cat-scale Cerebellar Model and its Simulation. 26th International Conference on Artificial Neural Networks (ICANN) 2017. 2017年9月11-14日, Sardinia, Italy.

小脳歩行論文

市村さん (D1)の卒研(!)だった、下肢筋骨格系モデルと小脳モデルを組み合わせた2足歩行モデルの論文が出版されました。

市村大輔, 矢野諭, 山﨑匡. 小脳による足底接地情報の遅れ補償を組み込んだ下肢筋骨格系モデルの歩行シミュレーション. 電子情報通信学会論文誌D Vol.J100-D No.8 pp.808-816, 2017.

片倉さん壮行会

片倉さんの何か(詳細は後日)の壮行会で、六本木のウルフギャングステーキハウスに行きました。

ネコ小脳論文に関するコメント

本日付で、オンライン版に掲載されました。関係者の皆様、ありがとうございました。

雑誌のImpact Factorは1.081と、いわゆる医学系の雑誌と比較して低く、論文の内容そのものも神経科学的に新しい知見を加えるわけではないですが、私としてはこの論文はとても大切です。なぜなら、

  1. おそらく神経科学の研究論文としては初めて、本物のHPCの専門誌に掲載されたから
  2. 本物のHPCの専門家とのコラボレーションにより初めて可能になった研究論文だから

です。

1. については、これまでも「京」全ノードを使ったシミュレーションの論文(Kunkel et al. 2014)や、我々のリアルタイム小脳モデルの論文(Yamazaki, Igarashi 2013)等ありましたが、掲載誌はFrontiers in NeuroinformaticsやNeural Networks等の、いわゆる神経科学の専門誌でした。もちろん神経科学としてのインパクトの方を重視したのだと思いますが、一方で、ではいわゆるHPCの専門誌に掲載可能な専門性と強度を持っていたかというと、必ずしもそうではないように思います。我々の今回の論文は、神経科学の多くの人達が聞いたこともないような、スケーリング、キャッシュ階層、通信の隠蔽、並列リダクション、とHPCの言葉を使って書かれたものであり、専門誌に掲載される程度の強度を有しています。分野を超えた論文を書けたことは、私にとって大きな意味があります。

2. については、戎崎先生、牧野先生というGRAPE Projectの2大巨頭と一緒に論文を書く、という栄誉に恵まれました。「異分野融合は大切です」とお題目のように唱える研究者は大勢いますが、実際にそれを実現するのは非常に非常に困難です。まずお互いが同じ言葉を話せるようになるまでにとてつもない時間と労力が必要だからです。大変ありがたいことに、2大巨頭の先生は我々の分野に歩み寄って下さり、共著者の五十嵐さんと私はより一層HPCの研鑽を深めた結果、少しは同じ言葉で話ができるようになりました。そもそも私が菖蒲を使えるようになったのは、戎崎先生が主催するアクセラレータ研究会がきっかけですので、この研究会が存在しなければ、そしてこの研究会に五十嵐さんが私を紹介してくれなければ、今回の論文はありませんでした。チームの勝利です。

これまでの私のキャリアにおけるマイルストーンはYamazaki et al. (2015)で、これを越えるのは当分ないだろうと思っていましたが、今回の論文は新たなマイルストーンです。2015年の初夏に初めて睡蓮を使い始めたときに、こんなに早くこの特別なスパコンの論文を発表する日が来るとは思いませんでした。

次のマイルストーンは、2018年春、1,000億ニューロンからなる世界で初めてのヒトスケール小脳モデルのリアルタイムシミュレーションを実現することです。どうぞお楽しみに。

山﨑 匡

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