大前彰吾博士 講演会のお知らせ

Baylor College of MedicineのJavier Medina博士の研究室に在籍し、小脳プルキンエ細胞の複雑スパイクによる情報表現に関して我々の見方を一変させた (Ohmae & Medina, Nat Neurosci, 2015) 大前彰吾博士が、日本に一時帰国されているため、この機会を利用して講演会を企画します。

大前さんのお話はこれまで基本的に英語でしか聞けませんでしたが、今回は日本国内での開催であるため、久しぶりに日本語での講演をお願いしご快諾いただきました。わかりやすい講演になりますので、プロの方のみならず学生さんの参加を特に歓迎いたします。事前登録不要、参加無料です。講演会終了後は私の研究室でさらに研究の話をして、夜は調布駅周辺で懇親会を開催する予定ですので、参加希望の方は私までご連絡ください。

日時:2024年2月19日 (月) 14:00-15:00
場所:電気通信大学 東3号館3階 マルチメディアホール (306号室)
   学内マップの27番の建物です https://www.uec.ac.jp/about/profile/access/
協賛:科研費学術変革A「行動変容生物学」・電通大 脳・医工学研究センター

タイトル:小脳の認知機能を実現するネットワークダイナミクス:小脳内ループ回路が時間処理と言語処理に果たす役割

アブストラクト
言語処理など人間の最も高度な認知機能も、ニューロンのつくる回路とその計算に遡ることができるはずである。大脳新皮質と密接に相互接続する小脳は、さまざまな認知処理で重要な役割を果たしている。小脳の回路構造が全ての機能領域にわたって一様であることから、私は時間情報処理という特定の認知機能の背後にある回路計算を調べ、この計算が他の認知機能にも一般化できるかどうかを調べることにした。まず、時間処理における小脳回路の学習則を調べたところ、小脳学習はドーパミン系のTemporal difference(TD)予測誤差信号と同様の予測誤差信号によって駆動されることを発見した。さらに私は、小脳がフィードフォワード回路であるという従来の見方を覆し、小脳内ループ結合が時間処理に不可欠であることを発見した。これらの生理学的知見に基づき、時間処理に適切なネットワークダイナミクスを学習できる、生物学的知見に基づいた人工ニューラルネットワーク(ANN)を作成した。さらにこの小脳ANNのループ回路計算の一般性を調べるために、小脳ANNがもうひとつの小脳高次認知機能である言語処理をどのように学習するかを調べた。結果、小脳ANNは、小脳の言語機能として知られる「文中の次の単語の予測」と「構文認識」を獲得することに成功し、単一のループ回路計算が複数の小脳言語機能の基礎となりうることを実証できた。これらの一連の研究は、小脳に関する従来の見解に挑戦し、時間処理と言語処理の両方で必要なネットワークダイナミクスを学習し生み出すループ回路計算の重要性を示している。

References:

Ohmae, S., Uematsu, A., Tanaka, M. Temporally specific sensory signals for the detection of stimulus omission in the primate deep cerebellar nuclei. Journal of Neuroscience. 33(39):15432-41 (2013).
Ohmae, S. & Medina, J. F. Climbing fibers encode a temporal-difference prediction error during cerebellar learning in mice. Nature neuroscience 18, 1798-1803 (2015).
Ohmae, S., Kunimatsu, J., Tanaka, M. Cerebellar Roles in self-timing for sub- and supra-second intervals. Journal of Neuroscience. 37(13):3511-3522 (2017).
Ohmae, S. et al. A recurrent circuit links antagonistic cerebellar modules during associative motor learning. bioRxiv (2021), under revision in Neuron.
Ohmae, K., Ohmae, S. Emergence of syntax and word prediction in an artificial neural circuit of the cerebellum. Nature Communications (in press)